魔人探偵脳噛ネウロ

続編が読みたいような、終わったままでいてほしいような

 
作者   松井優征
巻数   文庫12巻(コミックス23巻)
あらすじ 魔界から良質な謎を求めてやってきた魔人ネウロ。女子高生の弥子を使い、謎を求めて探偵事務所を開く。『箱』事件に関わることになってから、二人は大きな謎に巻き込まれていく。

 

まだデジタルで買い直していないんだけど、久しぶりに読み返しました。2013年初版の文庫での感想です。
文庫11巻にはデビュー作のネウロ、文庫12巻には短編版のネウロも収録されています。

タイトルのとおりの探偵ものとしてだけでなく、いろいろな読み方ができる作品。
初回はそのまま謎を楽しみ、再読時には弥子の変態食欲やネウロのS気質を楽しんでください。

絵柄は固く、こなれきっていないような時期からの開始。1巻なんてまだまだ、お世辞にも上手とはいえません。
だけど才能ある作家がドカンと出てくるときって、漫画のテクニックが追い付く前に作品ができちゃう。最初のころはいまいちな画風だったりするけれど、その中でも目を引くコマがある。中身が面白すぎて、残念な部分が気にならずに読んでいるうちに画が洗練されてくる。本作はその典型的な作品。
第1話でも迫力あるコマが登場するし、文庫だと1巻にもうドーピングコンソメスープあるから。
あと車スゲー!も1巻。たった2コマだけどここ大好き。

引用「魔人探偵脳噛ネウロ」
文庫1巻(松井優征)より
もうドSの片鱗が見える 第1話の1コマ

『謎』を解くと放出されるエネルギーを食べるというネウロ。魔界からやってきた、魔界で一番強い存在。ネウロの強さは頭脳であり、その思考力が全てを可能にします。彼に勝てるモノはどこにもありません。
後半に行くにつれ、真顔で行う拷問のコミカルさがどんどんエスカレート、男の色気が匂い立つような表情も多くなっていきます。弱ったネウロはセクシー。

食物でさえあれば何でも食べまくる弥子、彼女は胃袋モンスター。わんこそばの女性の平均は30~50杯だそうですよ皆さん!(弥子の「きょうのわんこ」を探そう)
明るい女子高生だけど、事件に巻き込まれることで暗い淵に寄ってしまうこともある。でも本性が健全なのでしょう、戻ってきた弥子は強く美しくすらあります。
本作の、話を司る主人公はあくまでも弥子です。

メインの二人以外だと、刑事の笹塚さんに人気があるらしい。飄々としたキャラで、作品内の去り方が衝撃的で話題になりました。クールな大人を分かりやすく表現しています。ギャグパートですらあまり崩れず、作品内で常に格好いいという位置に居たのはこの人くらいじゃないかな。
たまに出てくる学校パート、弥子の友人・叶絵ちゃんやクラスメイトたちは、弥子が女子高生であることを思い出させてくれる。学校が事件に巻き込まれるようなことはないのも安心して見ていられます。
弥子とネウロの二人でバンバン動いて解決するもんだから、サブキャラは際立つ動きはあまりしていません。
それだけに、サブに通常と違う動きがあるともうそれだけでここから何するんだと目が離せなくなる。いい動かし方。弥子のファン、俊足の浅田先輩が出てくるだけでもうね、空気が変わるというか、変態だなぁ。
早い段階で探偵事務所を構え、吾代さんも仲間入り。笹塚さんが頭が切れて冷静なら、吾代さんは直情的でよく動く。チンピラだから裏の顔もあって便利な位置付け。ツヤツヤの黒髪が美しい秘書のあかねちゃんもデキる仲間。

初期はネウロと弥子が事件を解決し、その事件にまつわる謎をネウロが食べて終了、という形で進んで行きます。
ネウロの能力や魔界の道具を使ってあっさりと謎を解く。普通なら不明なことがすぐ片付いちゃう。目的は謎を解くことではなく、解いたときに放出されるエネルギー。だから解くきっかけの部分は強引でいい。
事件は、わかりやすい怨恨や嫉妬といったものは少しだけ。偏執的なものが多めです。殺害する相手そのものに対する殺意ではなく、他に理由があるパターン。ネガティブな表情を見たいから、その人の身内を殺害する、とか。

変態系もありあり。
連載していた時代でもフェティシズムの概念は既に浸透していましたが、これを少年誌でやったのね。
ジャンプは、グロはともかくエロには明確な線引きがあるように感じますが、フェチとなると響かない人が見たって何とも思わないわけで、それを逆手に取ったとでもいうか。
後半のシックス編でのジェニュインにある、分かりやすい記号としてのフェチだけじゃありません。ここで取り上げてみるのは、HAL編に出てきた貫通願望のある女性。端役だし、フェチに対してのコマは少しだけなんだけど、めっちゃ興奮してるのがわかる。このひとヤバい。
いやフェティシズムは万物に宿るわけですし、誰が何に興奮してもいいんですけれど。
さすがに本格的なフェチものに比べれば表現は軽めですが、こんなんで目覚めた子がいたらどうしようか……。

引用「魔人探偵脳噛ネウロ」
文庫5巻(松井優征)より
いい穴に興奮

文庫2巻の序盤から「箱」が出てきます。大きな流れのスタートになる第18話。創作物で扱う箱という物体は常に面白い。有名なところだと『箱男』とか(当ブログ内ではモロ漫画の『BOX』を紹介しています)。
本作では、箱が作られる理由が恐ろしい。怨恨が理由であったほうがいいとすら思えるような、キ〇ガイ感満載の理由。
ダミーのようでダミーでない事件で、怪盗XI、通称X・サイと呼ばれる犯人がここで登場。まだ若く十代に見える外見だけど、これが本当の顔なのかは本人にももうわからない。
俗にいうサイコパスの一番の特徴は「良心の欠如」だそうですが、正にサイはそのとおり。本作の犯罪者側はみんなサイコパス気質ではあるけれど。
サイはちょこちょこと再登場しますが、そのたびに爪痕を残していきます。

犯罪者側のキャラ、サイやシックスといったライバル扱いは置いといて、魅力的なのはやっぱり葛西でしょう。火火火と笑う中年男、彼の望みはただの「長生き」。なんて恰好いいのか。
彼の喫煙に絡んだ暴力シーンはブラックジョークとして見事に成立した表現。遠い未来に規制されることがありませんように。
元喫煙者としてはJOKERも懐かしい、1978~2001年の販売だったそうです。ロゴをちりばめたようなパッケージや独特なサイズで、当時は馴染みの煙草屋でも目を引きました。

脈絡のない暴力と理由のない暴言に慣れてきて、表情や仕草でネウロのことがわかるようになってきた弥子。温泉に行く弥子についていこうとするネウロの「ダメか…?」の一言で殺意が読み取れるまでに進化。
言葉と表情から本心が理解できるなんて、仲良くなってきたのね。

引用「魔人探偵脳噛ネウロ」
文庫2巻(松井優征)より
ネウロのことが理解できている二人

温泉でも事件に巻き込まれましたが、フンフフーンだけでどこかの国歌が聞こえてくるうちにサックリ解決。
文庫版4巻からその温泉事件の登場人物を使って始まるのがHAL編。本作の中でも人気のある一編です。とにかく完成度が高いというか、導入から終わりまですごく綺麗。
HAL編の導入部ではシャツをズボンに入れすぎる人や、かまってほしい刑事の篚口くんが登場。

電子ドラッグというものを利用した犯罪、電波ジャックによる洗脳。ネウロと電人HALの対決は、ネットワーク内だけではありません。
スパコンの場所へ行くネウロを物理的に止めるため、銃を持つ実行部隊がHAL側に。そんなプロ集団だけなら扱いやすいけれど、一般人までがネウロを襲ってくるもんで捌くのが大変。

引用「魔人探偵脳噛ネウロ」
文庫5巻(松井優征)より
電子ドラッグの影響を受けた一般人の集団

5巻終盤~6巻冒頭で初めて、ネウロが弥子の前で弱みを見せます。魔力が尽きたということで身体はボロボロ。ネウロは「奴隷」の弥子に頼るしかなく、見事に活躍した弥子を少しは使える奴と思ったのでしょうか、彼女のランクを少し上げたように感じます。
HAL編で見せた結論は、人の愛。何言ってんだこいつと思わず読んで!もう会えないひとに会いたい、そんな些細な気持ちから発生した大きな事件。切なさや寂しさが余韻に残る終わり方。
謎解きとバトル、弥子とネウロの変化を楽しむHAL編です。

ヤプーを思い出す変態家具屋の話を挟んで放火犯・葛西の登場。なんとシャツをズボンに入れすぎる人と葛西は身内だった、ズボンの位置にびっくりする葛西。こんな話からシックス編が始まっていいのか。
弥子のアルバイト大作戦や、這って動く白を追うおもちゃ屋変態ジジイと七光り息子の話を挟み、サイが再始動します。
全てはシックス編のメインが出てくるまでの布石。そう、シックス編ではサイは露払いのような位置付け。本編では当然活躍するんだけれど、その活躍はシックスの掌の上でしかないサイ。こんなに活躍するのに!弥子を洗脳してみたり頑張るのに葛西から前座呼ばわりされちゃうのカワイソー。

文庫8巻、満を持してシックスの登場です。
吐き気を催す邪悪ってやつだぜっ!とでも言いたくなるようなシックス。『新しい血族』のトップに君臨する彼は、ネウロですら不快な表情を浮かべる相手。二人は一見和やかなお茶会で対話しますが、当然交渉は決裂。
シックスの部下DRと、河原で豪華なダンボールハウスに住むおじさんがお目見えして文庫9巻へ。DRは『五本指』という名称を持つシックス直属の部下。その名のとおり5人居て、シックスの指示のもとネウロに向かいます。

DRと対峙するネウロ。彼はネウロを怒らせるという、とんでもなく馬鹿なことをしたひとり。ネウロの怒りはDRをボロボロに。それでもネウロから見れば大したことをしたわけでなく、怒りを発散するサンドバッグのようなもの。ストレスを発散させるおもちゃ扱い。オマケページにもう一週やりたかったと書き込まれていますが、一週どころか三週くらい足していいのに!ってくらいに、とてもネウロらしい拷問シーンの連発。私の中ではDR拷問は本作でピークのひとつになっているくらい。
相手がテラのときもいい顔を見せてくれるし、ジェニュインのときの「ほう」もインパクト強いけど、でもDRの回が一番Sっ気を感じます。

引用「魔人探偵脳噛ネウロ」
文庫9巻・10巻(松井優征)より
DR戦で見せたSの顔(左)

テラ戦のボロボロ(中)
ほう(右)

新たな五本指・テラが登場したと思ったらなぜかバレンタインネタが挟まる構成。シリアスムードに水を差すのではとも思ったが、スリムな浅田先輩が見られたからいいか(スリムで終わらないけど)。
息抜き回はこれ以外にもいろいろとあって、本筋がダーク系なだけに目立つように感じますが、一気読みしてみるとそれほど邪魔にならないボリューム。バランスがいいんでしょうね。
文庫8巻の126~128話なんて、これまでの犯人や端役が活躍する単話のアソート回が続くのに邪魔に感じない。ヘビーな話が続く前に小ネタをたっぷり楽しんでもらうという趣向なのか。
いつ打ち切りが入ってもいいように構成していたという本作。一話内やシリーズ内での緩急の付け方も、シリアスとギャグのボリュームも非常に上手い。小ネタがとにかく多くてそこら中に散りばめられていますが、お気に入りは葛西の〇耕作パロが不意打ちすぎるところでしょうか。

引用「魔人探偵脳噛ネウロ」
文庫10巻(松井優征)より
二人がジムに行く回 魔界ラジオ体操

テラとのバトルが終わりネウロが勝ってはいますが、魔力がだいぶ減っている。魔人であることを弥子以外にも話したり魔力の回復に努めたりと、実は弱っていることがわかります。そのため次の五本指・ヴァイジャヤ戦ではネウロは動かず遠隔で指示するのみ。動けないからってゲーム作ったりしてる。もちろん弥子いじりゲームで、静かに過ごしながら魔力の回復に努めます。
弥子たちは森の中という閉じた世界で、五本指のヴァイジャヤと対決。女子高生とチンピラと刑事というメンバーで血族に勝てるのか?自然物を使った攻撃は凄いぞ。樹木が車を攻撃するシーンはなかなかのビジュアルです、ぜひ見てほしい。

11巻に入ってジェニュインもネウロに屈服。しかしジェニュインはシックスの物だった。ネウロが素直に負けを認めるくらいに恰好いい退場。
ここまでの五本指たちがジタバタしていただけに、彼女の去り方は見た目に違わずとても美しい。
あとの1本は葛西ですが、彼はネウロに直接何かしようとはせず、刑事を攪乱させるなどといった工作の側。特殊能力を持つというよりも火の扱いに長けているといったおじちゃんだから、これでいいのかも。

ここにきてサイが、イレブンを名を改めて再登場。
笹塚さんの不審な動きとともに彼の過去が再度読者に開示され、情緒が挟まる余地のない去り方をしていきます。
小物になっちゃったなサイ…ってのが、新たなるイレブンを見ての感想。なんだかさみしい。HALの事件の元凶までもここで判明、いろいろなことが大きく動く11巻。

へこんでしまった弥子が自分を取り戻しネウロの元に戻った文庫の最終12巻冒頭。
シックスとの再会、お互いの威信を賭けての戦い。今までの犯罪者や、もちろんサイ改めイレブンもネウロに襲い掛かってきます。途中で弥子とネウロの二人が移動するときに、ネウロが弥子を見る眼差しが優しく、二人の間に信頼というものが生まれていたんだなと感じるいいシーンが。
長いバトルの内容は読んだほうが面白いから省略、当然ネウロの勝ちだけどこの勝ち方は卑怯だわ、凄いけど。
魔族だからね、最後も飛び道具。そしてバトルの最後もドS。素敵。

引用「魔人探偵脳噛ネウロ」
文庫12巻(松井優征)より
信頼感

戦い終わって、作品が終息していく雰囲気を感じる200~201話。
もうラスト前だから当たり前、新たな話を作ることも可能な構成なのでしょうが、本作はここで終了へ向いていきます。最終話で見せた弥子の未来を見る眼差しは、作品内のドロドロした部分を全て取り払う清々しさです。
葛西のおじちゃんがしぶとく生き残っているのもまたいい。彼の目標は長生きだからね。

初期では、弥子はネウロを化物と感じ、ネウロは弥子を奴隷・便所の雑巾扱いしています。関係が少し変化してくるのは「日付はいつ変わるのだ?」と言われるあたりからでしょうか。この発言の前くらいに情報屋の話が挟まったりと、単に事件を解決するといったパターンから少しシフトしています。HAL編終了時に、日付に関するダブルミーニングの発言がありますね。
読者はけっこう早い段階で二人をパートナー・相棒として見ているんだけれど、お互いが、特にネウロが弥子を「相棒」と口にするのは本当の終盤。感動すら覚えるシーン。まさかネウロで感動が得られるとは思ってなかっただけに、余計に来るものがある。

続きが読みたいというよりは、読み終わった余韻が響いているのでこれで締めてほしいという感じ。
いやもちろん続編とか出ることがあれば読むよ読みますけど。
楽しい映画を見終わったような、これで終わってほしい感もあるのよね。読者のわがまま。