WOMBS

女は強い

作者   白井弓子
巻数   5巻
あらすじ 碧王新連合、通称「セカンド」と戦うハスト国軍の転送兵として徴兵され教育を受けるマナ・オーガ。 転送とは、女性特有の身体機能を利用して兵士たちを特定座標へ文字通り「転送」すること。故郷を心の支えとし、教官の指導に耐えながら同期とともに軍に順応していくマナは、ある日、転送中に普段とは異なるものを感じ・・

 

女性を強く感じさせるハードSF。
しかしフェミニズムを押し出しているのではありません。
軍にいる女性というだけで軽口を叩かれてしまったり、女性特有の精神性も表現されるため、
男性がその煩わしさに共感しにくい面はあると思います。
それでも男女問わず読んでほしい。女性が腹を括ったときの強さが描かれています。

女性特有の身体機能、本作では子宮とその役目を指します。
題名のWOMBSはそのまま「子宮」の意味。
本来子宮は、子を育て保護する臓器ですが、
ここは、子ではなくニーバスという謎の生き物を腹に抱え、
ニーバスが子宮にいる短い期間だけ、その力を借り転送兵として存在するという世界。
そしてその期間中は、妊娠と同様の煩わしさに振り回されます。
決して妊娠ではなく、ハストのために、戦うために処置をしているだけ。
そのように教え込まれ、兵達も自らをそのように鼓舞します。

転送は大いなるアドバンテージ、
これ無くしてはセカンドに勝つことはできない重要な、技術を秘匿すべき存在。
それゆえに、兵達は全てを知らされないままナノマシンを体内に埋め込み、
ニーバスを移植し、座標空間に「飛ぶ」ことの恐怖に耐えながら「正しい転送兵」として進む。
新兵達の同級生のような楽しさを感じると同時に、
ここは戦時なんだと思わせるカットが入り、また重く苦しい空気に戻ります。
主人公マナの不安定さは、読む者にもそれを共感させるよう描かれています。

ドライバー、タンクといった通常の転送兵とは別に扱われる特殊な能力「探索者」、
更に「開拓者」の素質を見出され、ニーバスの世界、座標空間に入り込んでいくマナ。
ますます不安定になり、とうとう目覚めた力は暴走してしまう。
もう見ていて辛くなってくる、なのに目が離せない。
それだけこの話に引き込まれてしまう。

転送器官の造形がなんというかもう、絵面で見ると決して綺麗なものではありません。
子宮そのものは実際に内臓のひとつなわけだし、美しい造形とは違うけれどそれだけに、腹に宿した兵の、思いを見るこちらはとても複雑です。
可愛い我が子などではない、詳細が知らされていない謎の物体(?)を入れられ、それでも日を追うごとに膨らむ自分の腹を撫で擦る女たち。
戦闘服は全て、腹を守るように作られています。
命があっても腹に「入っている」かどうかが重要、入っていない者は役立たず。

引用:戦闘服
引用「WOMBS」4巻(白井弓子)より
戦闘中の場面 腹を守る独特なデザインの戦闘服

そしてこの話はマナを主人公としていますが、もう一人の主役アルメア軍曹が居てこそ。
ハスト国軍としてセカンドと戦うために、
ニーバスのポイント奪取という「入っている」者にしか見えない争いを続ける転送兵たち。
壮絶な過去、あのころに戻らないため繰り返さないために、
仲間を守り続ける女性。自分の過去を置き去りにしてでも戦い続ける女性。軍曹を救う物語でもあります。

転送兵を消耗品のように扱う医師や、転送兵の戦いが見えない男、飛ばないチームといった
軍曹達の敵と、座標にいるニーバス、そしてナビ。
自らが座標空間で作り出す、精神的な支えであり、自らを映す鏡のようなナビは、
どこかで見た誰かの姿を借りて、マナ、そしてアルメア軍曹の心に刺さります。
セカンドとの戦争、ニーバスとの争い、そしてもうひとつの戦いがここにあります。
座標に囚われてしまった者たちは、自らとも戦わなければならない。
軍曹チームの一人、チーフ・ミミも、座標に囚われた一人です。
そして何らかの予感を、安寧を祈らずにいられないラスト。
マナは安らかだった、でありますように。

女性であることを綺麗に落とし込み、当たり前のこととして受け止めている作品。
女だという部分で悩んだりはしていないのです。
そして女だからこその強さを描いています。
5巻という巻数できっちりとまとめ上げた素晴らしい作品です。
本作は日本SF大賞を受賞した大いなる作品。
「軍」と「女性」から、ここまで引き出せるとは。
作者はお子様がいらっしゃるそうで、経験を元にしている部分があるとはいえ、
よくぞここまで練り上げたものだと、凄いです。
読めてよかったと思える作品です。