リバーサイド・ネイキッドブレッド

成長過程と恋愛ベクトルは人の数だけある


作者   有間しのぶ
巻数   1巻
あらすじ 女子中学生のいぶきは、運河沿いに新しくできたパン屋『デバウチュ』の店員ルリに一目惚れ。
複雑な家庭環境の同級生と年上女王様、毛深い兄と美少女の親友、恋を避けてきた人、それぞれの行く末は。

 

恋愛は恰好良くて可愛い幸せな男女だけのものではない。
性愛を感じる相手は、染色体で見る異性だけではないということはだいぶ認知されてきたけれど、まだまだそこに行く背景はハッピーばかりではなく、肉親や周囲の理解者は少ない。そこにどう折り合いを付けて生きていこうか。
成長過程と恋愛ベクトルは人の数だけあるということを教えてくれる作品。

キャラに特性が付与されているような作品なので、メインを何人か解説。
いぶきは普通の女子中学生。「毛もの」家系でムダ毛に悩むオープニングと、やけにリアルな話題から始まります。
恋に恋するお年頃のいぶき、思春期特有のあのカオスな感情表現が見ていて恥ずかしくてうおーっとなる。
家庭環境は良く、出番は少ないけれどいぶきを大切にしているのがわかる父親、反抗期には微妙ないぶきの態度に慎重な対応をする母親と、ベタベタせずに仲の良い「毛もの男子高校生」の兄という構成。いかにもな健全で普通の一家。
愛やら恋やらまだ自分の中で確定しておらず、若さゆえに振り回される様がなんとも青くて、それでも自ら逆風に立ち向かい打破していくように見えます。

リバーサイド・ネイキッドブレッド
(有間しのぶ)より
いぶきと兄の懸ちゃん、仲良し

鏡合わせのように不健全で共依存な家庭で過ごす、いぶきの同級生・犬井くん。
外面は普通に過ごし家では犬井くんに依存している母親。年齢が離れた妹は対人に難ありで引きこもり。
この3人で、精神的な虐待ともいえる状況で暮らしています。
犬井くん本人は女王様と放置プレイによる関係を締結して安心するという、これまた特異な精神性。
『普通』が何を指すのかは人によるけれど、これが普通のカテゴリに入らないことはわかる。
こちらも思春期特有だけど、いぶきと違うところは一歩踏み間違えれば中二病になるあたり。ギリギリを歩いてる感覚で恥ずかしい!
将来が見えない犬井くん、社会的な安定と心の安定はイコールではない。彼の行く末は少し心配。

犬井くんに惚れられるダコタ女王様。
女王様な部分は性格の一部、心根は優しい普通の女性。
奴隷との結婚は上手くいかずにバツイチで、でも別れてもまだ好きなの。少女心が出てきて可愛いなあ。
いきなりの犬井くんの言動にしばし振り回されますが、そこはやっぱり大人の女性。ご近所には挨拶をかかさない真面目な五反田さんですもの、中学生が敵うはずがない。
職業はアンモラルだけど、健全で偏りの無い精神の持ち主。作中で一番幸せなひとでもあります。
長ーいピアスがどこに繋がっているのかは想像してみよう!
●(リバーサイド・ネイキッドブレット(有間しのぶ)より ダコタ女王様と犬井くん)

リバーサイド・ネイキッドブレッド
(有間しのぶ)より
ダコタ女王様と犬井くん

いぶきの恋の相手、ルリ。
サラサラして柔らかくて涼しそう、といういぶきの形容そのままのビジュアル。
しかしルリの中身もまた複雑。
ルリを支える友人と母がいて、好きなことができて。自己の殻を高く厚く強くして安定を感じるルリ、もう満足もう何も望まないと、知らずのうちに自分を型に嵌めて抑えています。
他人に対する主張は弱く、秘めた意思は強く、作中では抑圧された大人の女性という立ち位置。

リバーサイド・ネイキッドブレッド
(有間しのぶ)より
パン屋のメンバー
ルリ(上)、ポカリ君と真文(下)

そんなルリの内面を知らずに好きになったいぶき。
女性への思慕は、本人が恋だと思っていても周囲は憧れとしか取らず、揶揄する人も居てなんとも言えない暗い気持ちに。
そりゃー中学生が大人の女性を好きだといっても本気にする人はいないだろう、でもそう取られたら傷付くだろう。センシティブな年頃。
こんないぶきの気持ちを軸に進んで行く本作。

脇役の中でいいポジションなのがいぶきのお兄ちゃん。
毛ものゆえに達観している兄を落とす美少女、この子は毛ものフェチってことよね。ここにも恋愛のひとつの形が。
男性の毛ものは絶対ダメってひとも大好きってひともいるので、これはもうカップリング次第。
毛ものゆえに消極的だったけれど、優しくて愛情深そうなお兄ちゃん。幸せになって!!

出てくる料理が美味しそうなのは有間作品の読者ならご存知のとおり。本作ではレシピや手順は出ていませんが、料理名だけで再現したくなる。
マヨネーズの代わりにベシャメルソースを使った玉子サンドとか、豚バラとニンニク芽の胡桃餡かけ炒めなんて、次の夕食にさっそく真似してみようかなと思わせる。

ティーンの恋愛話のような入り口に見せかけて、実際は多彩な性と愛の形を否定しない、というお話し。
ここではわかりやすくカテゴライズしてしまうけれど、レズビアン・SM・フェチという性的に区分できるものと、親子愛に自己愛に友愛、といったものが描かれています。みんなちがってみんないい的な。

元が四コマ漫画出身のせいか、本筋以外のボリュームが大きくなりすぎて散らかった印象の作品もある作者ですが、本作は一巻完結ということもあってか片付いています。
いぶき周辺、犬井+ダコタ周辺、パン屋のあれこれ、の三本立てが脱線せずに、最後は皆が微笑んで終わります。(最後に入っている番外編では泣いている子もいるけれど)
タイトルに「ネイキッド」が入っている、その意味を意識しながら再読したくなる。