果ての星通信

「もっとほのぼのSF映画を観ときゃよかった」という言葉に同意


作者 メノタ
巻数 5巻
あらすじ 恋人と世界旅行に出ようとしていたマルコは宇宙人に拉致された。これから10年、第8銀河の惑星モスリで【果ての管理者】として星を作る仕事をすることに。

  

秀作なSFを読めて嬉しい!というのが一番の感想。
サクッと読めるかな?なんて気分で入手してみた本作。確かにサクッと読める。そして何度も読める。再読するたびに視点を変えたりして楽しめる、面白い!

いきなり拉致されてしまう主人公のマルコ。ロシア在住人の設定で、ロシアの言語や文化がちょこちょこと出てきます。そのちょこっとだけ出てくる描写がいちいち興味深い。
しかし本作は外国どころか異星人の文化が山盛りに出てくるので、ロシア文化に思いを馳せる余裕がありません。異星人も多種多様。ヒューマン型だけでも何種も出てきます。目の数や腕脚の形状という分かりやすいものから食性の違いまで。もちろん宇宙人らしい宇宙人もいて、俗にいうタコ型宇宙人と会ったマルコはベタすぎる宇宙人に会って感動しています。

2話の題が『アブダクション』、この話では「誘拐」を指しているんだろうけれど、最初の1話にそのシーンがあります。ポップな描線なのにグロテスクで、ゾワゾワっとくる。
ほわほわと可愛らしい画面が多いだけに、たまに見せる狂気がものすごく引き立つ。

引用「果ての星通信」(メノタ)1巻より
 連れ去られるシーン

話の緩急の付け方が良い意味で基本に忠実なかんじ。起承転結や流れがしっかり出来ていて、主軸が揺らがず安定感がある。
脇役はとても個性的で、各々のエピソードを入れていても出過ぎることもなくバランスが取れている。適当感が溢れるナナギ、お姉さんなフィッツィー、達観した立ち位置の局長、この三人が話を上手に回してくれる。

宇宙局の存在やら何やらを認識しているのが開いた星、知らないのが閉じた星(地球は「閉じた星」)というのがこの世界の基本。
閉じた星から来た局員は、当初はパニック&戸惑うばかり。
だっていきなり異形の生物から「これから10年、ここで星を育ててください」って言われて。知らない場所に来て帰ることは叶わず脱走は不可能で、元の場所に連絡もできず、言葉は通じるけれど未知の生物しかいなくて、今まで疑いもせずにいた世界観が覆され、理解できない仕事を10年続けることになっている。なんという過酷な設定。

引用「果ての星通信」(メノタ)1巻より
宇宙の仕組みについていけないマルコ(上)
前任者が作った星の数々(下)

『拉致られたマルコは故郷に帰りたい』がメインのお話し。
拉致を実行した局長に怒り、大元の原因である【上の人】に怒るマルコ。この怒りを原動力に動きますが、しかし宇宙を泳ぐ巨大魚ヨルワンガに襲われて、心臓を取られてしまう事態に。心臓を取り戻さないと地球に帰ったとたんに死んでしまう。さあどうする?
ここで一旦区切りを迎え、心臓を取り戻そうとする新たな章に入ります。
局長との会話で、納得せずとも現状を理解したマルコ。苦しみ悲しみを抱えたまま、それでも前に進みます。
普通なら主人公カッコいい!なんてなるあたりなんでしょうが、本人が言うとおり執念深いところが前に出ているせいか、素敵!という方向にならない。
なんというか、マルコはしつこくてネガ寄りで、でもタフな印象。

引用「果ての星通信」(メノタ)2巻より
局長の辛辣な返答

この後は皆でマルコの心臓を探すのだけど、現状では手がかりすら無い状態。
その手がかりを探しに銀河図書館へ入るためにユノ・ザ星人と会食イベントをこなして入場チケットを手に入れなければならない、というRPGのおつかい状態に。
ユノ・ザ星人のリアクションがいちいちキュートです。
その後に犯罪者の計画に巻き込まれたりで大変な目に会いますが、やっとヨルワンガにつながりそうなワードを手に入れました。
ナナギのネタバレに耐えつつワードを紐解く局長の活躍でまた一歩進んだよ!

引用「果ての星通信」(メノタ)3巻より
ネタバレに負けるな局長

寄り道的なお話しが沢山入っています。
第4アクズ星人の局長はひとりの悲しさを、ダ・ココバ星人のナナギは身内の重責を。明るく楽しく過ごしているように見える彼らのいろいろな思いを見せてくれます。
ソルフェ星人のフィッツィーはみんなのお姉さんポジションで影の無い人物設定。

引用「果ての星通信」(メノタ)2巻より
13話表紙
前列左よりマウー・レゾル・フイッツィー
後列左よりナナギ・局長・マルコ

一番可愛いのはもちろんマウー。モフモフ好きのマルコにはたまらないロノウトギ星人。
3巻で幼稚園に行くマウーの愛らしさったらもう!!マウーは片われのヌゥを亡くしています。その喪失感を持て余すマウーとそれを優しく受け止めるマルコ。二人の、まるで親子のような愛情を感じるシーンがとても優しくて、そこだけ大人向けの絵本の世界。
とにかくマウーがかわいらしくてたまらない、マルコにコーヒーを持ってくるときのマウーとかもうさあ!可愛いんだよ!!
後はヨルワンガ捕獲のキーパーソンであるカノーウィ博士、彼自身がヨルワンガを捕まえたいもんだから、この捕獲作戦では大活躍。マウーとレゾルが博士を「おじいちゃん」と呼ぶの、ほんとに祖父と孫っぽくて読んでほわほわする。
レギュラー以外のキャラも全員が個性的で素敵。
寄り道と表現したけれど逸脱し過ぎることはなく、全部が必要な寄り道。哀しい話も愉快な話も、全てがラストに向かうために必須なものばかり。

引用「果ての星通信」(メノタ)3巻より
駄々っ子のかわいいマウーってばかわいい

キャラ以外の設定について。
星は花火から産まれ、フラスコ内で日に二度のエサを食べて育ち、要素を入れたり磨いたりしてから放流するらしい。なんだこれ、楽しい!!
この花火についても更に細かい話が出てきます。母星が産卵してそれが花火になるという、これはもう文字で説明するのもったいないので、画面を見て読んでほしい。

管理局のための星『ホルシェ8』、巨大な宇宙コロニーであり局のための物資を生産しています。
マルコ達がいるモスリとおなじくらい何度も出てくるホルシェ8は、やはり細かな設定が作り込まれています。
この、作品中に散りばめられた設定の数々。考えるの楽しかっただろうなーと思わせるワクワク感に溢れています。画風のおかげか抜け感があってキャッチーで、難しく感じさせないのもいい。
言語や食事という日常風景にも細かな設定がバンバン出てくるから目が離せない。単行本オマケの書き下ろしがとにかく細かいので必見。
一巻ではロノウトギ星人解説から始まり、ホルシェ8で出会ういろいろな星人や局員部屋の内装紹介、石食生物レポートもあります。ホルシェ8や惑星モスリの外観も。銀河鉄道の新しい星に出てきそうな面白さ。
オマケ漫画ではお気楽な日常を描いていて、ほんわかしたりギャグが入ったり、ますます彼らが好きになる。
だいたいはマルコが振り回される形、でもモンゴリアンデスワームに関しては別だ。モフモフ好きでもあるがUMAもこよなく愛するマルコ、彼のエビ愛がどこへ行き着くのかは最後まで読んでみてください。

引用「果ての星通信」(メノタ)5巻より
エラッケ星の説明 こんな設定が山盛り

二年経過(飛ばし)して4巻、マルコもだいぶこの世界に慣れていて、ホルシェ8で他局員とゲームに興じるくらいに馴染みました。しかしマルコの心臓について進展が無いからこその二年すっ飛ばしなわけだ。
この4巻では地球のコピペ星テキューが出てきます(どちらがコピーかは不明)。マルコの故郷そっくりの街並みと人々、そしてマルコそっくりの“マルコ”まで。
そっくりなのは外見だけみたいで性格や知り合いは微妙に違うところが楽しい。

引用「果ての星通信」(メノタ)4巻より
地球のマルコはSNSしない派

4巻でやっと登場の「上の人」。神で創造主である上の人には下々の言動なんか響かない。宇宙の全ては彼の楽しみのためにある、それだけの存在。
彼のルールに則り新たなる試練を課されるマルコ。局長が絞り出すように口にする「なんてことを」という言葉。何があったのかは見れば分かりますが、見なくてもこの言葉だけで分かる場面。
4巻のラストは静かで哀しく、でもマルコの力強い望郷の思いが伝わります。
でも4巻では、小さくておしゃべりでキラキラが好きで、第8銀河で一番強い糸を紡ぐコロイヤ星人も注目してね!そうやって和む話が入りつつ、5巻の美しいラストに向かっていきます。

宇宙を駆ける機関車で、次に降りるのはどんな星だろうと楽しみにした記憶がある人は、アレを現代風にした感覚に浸れます。
いろいろな星と各星人の外見や生活習慣、細かく設定された内容は読んでいて本当に楽しい。画風から受ける、全体に流れるほのぼのした空気がシリアス感を抑えることに成功しているので、宇宙モノは苦手な方でも読みやすいはず。

マルコの「もっとほのぼのSF映画を観ときゃよかった」ってセリフそのまんまな感じ、
この世界はけっこうハードな内容なんだけれど、ジャンル分けするなら確かに『ほのぼのSF』だ。一度読んだら次は細かい設定を追うためにまたすぐ読み返したくなる、ずっと読み続けたい作品。
そうそう、読みは『果ての星(しょう)通信』です。