ほしとんで
日本語の奥深さ
作者 本田
巻数 5巻
あらすじ 八島大学芸術学部、通称やし芸で文芸学専攻の尾崎流星くん。
学部が勝手に決めた俳句ゼミで、何もわからぬままに俳句の世界に足を踏み入れていく。
俳句に対してなんとなく敷居が高く感じていた部分が無くなり、もっとカジュアルに親しんでいいんだなと思えるようになった作品。
馴染みのない方でも気軽に読めて、俳句の面白さがそれとなく伝わってきて、いろんな句を読んで、人によっては詠んでみたくなる。

歳時記に触れる流星くん
本作は俳句ゼミのキャラの強さがものすごい引力で、これが単なる大学生活モノだったらアクが強すぎてキツい。
一番薄い(ように見える)のが主人公という状況ですが、ここに『俳句』という軸が入ることで、そのアクまでも美味しく頂けます。
その非常に濃厚な俳句ゼミのメンバー、あえて一行で紹介。
辛く悲しい黒歴史を抱えた主人公の流星君、
プロトタイプ・オタクで漫画家志望の春信君、
拗らせ女子で小説書きのの薺さん、
日本育ちな外国枠のレンカさん、
子持ち通学のみどりさん(+ひばりさん)。
どれだけ特濃なのかは実際に読んでみてください。
特に流星君の黒歴史は、こんなの背負っているなんて流星くんすごい、やっぱ主人公は格が違う。

左から隼先輩+ひばりさん、春信くん、
みどりさん、流星くん、
レンカさん、薺さん
俳人でもある坂本教授の指導という流れで、俳句のルール的なものを学んでいける作品になっています。
難しそうな部分は、素人のゼミ生の『わからない』を解説するという形で進んでいくのでサクサク読める。
ストーリーの軸はあくまでも俳句。
最初は句の穴埋めというところから始まって、俳句というものをなんとなーく触り始めたゼミ生。
その後は手探りながらもこわごわと実際に詠んでみたりする。
吟行(句を詠むための外出、といったもの)に行ってみたり、煩雑そうな句会のシステムに頑張って付いていったりと、俳句の素人が少しずつ前に進んで行く様を読ませてくれる。
俳句を知っている方が読むとまた違う目線になるのでしょうが、この作品を読むこちらも素人なだけに、わからないというポイントが同じなので、目が滑るようなこともなく非常に読みやすい。

歳時記の松について解説
流星くんの幼馴染や身内の教授といった名のある脇役もそこそこ出てきますが、俳句には直接絡みません。このあたりで話を膨らますことは最低限にしている様子。あくまでもキャラの性格付けの補完という立ち位置です。
ゼミ担当の坂本教授は指導役なので別格ですが、他の教授たちはその補完の位置。他にモブで俳句に絡むのは3年ゼミ生ですが、頻繁には出てきません。
しかし脇役たちも強烈な個性がダダ洩れしています。なのでゼミ生と坂本先生を中心に置き、他の人物は脇役に徹することで、『ゼミ生が学ぶ俳句』の世界を構築しています。
それでも主役を喰いそうになる溢れ出てくるモブキャラ軍、ぜひ読んでいただきたい。

個性豊かな脇役の一部
嶋先生の愚痴を聞く、チラ見沢ぽろり先生。
1巻は俳句のサワリと人物紹介、2巻で吟行&句会、3巻で俳句・人物・やし芸の掘り下げが。4巻になると更にディープさを増して、流星くんの黒歴史や『ババ★ヤガ』クラスタが発生。そしてラストの5巻では『連句』の深さに巻き込まれていきます。
大きな出来事は無く、俳句を紹介し俳句を詠む作品。といえばそれで終わってしまうのですが、それだけなのに5巻まで読み進められるのがさすがの力量。
退屈にならないために濃いキャラ達がいるのか、句の周りをぐるんぐるんと七転八倒していて非常に面白い。
ゼミ生ではレンカさんがお気に入り。ベルーガのときに見せる愛らしさにキュンと来る。
日本人であれば、日本で暮らしていれば、俳句に触れないということは無く、どこかで必ず目にし耳にしているもの。でも俳句を実際に詠む機会は私には無かったので、なにげなく読み始めたこの作品で、俳句の面白さ、美しさ、儚さ、五七五という短さに込める情感、といったものを改めて知ることができたのはとても嬉しい。
歳時記を入手してしまおうかと書店に行ったらものすごい数だったので尻込みして買わずに帰りましたが。
俳句が嫌いなわけじゃないけど興味があるわけでもなく、有名なやつはなんとなく知ってるなぁ、くらいの方向け。
作品内に出てくる句は引用しませんでした、実際に読んでその句に触れてみてください。
自分自身が使っている日本語の奥深さを、改めて知ることができるかもしれません。