しょうもないのうりょく

あると便利かもしれんが無くてもいい

作者 高野雀 
巻数   3巻
あらすじ 個人それぞれの『異能』を持つ世界。会社員の星野さんは〈書類を崩さず置ける〉異能を持っています。でも実はもうひとつの異能があって。
たいしたことのない、様々な能力を持つひとたちは、普通にお仕事をしています。

 

題名どおりに、本当にしょうもないのうりょくが山盛り。主人公の星野さんはもちろんですが、彼女の同僚が持つ異能もしょうもない。
第一話に出てきただけでも〈さっきまで居た場所だけがわかる〉〈カロリーがわかる〉〈目当てのものがすぐに出せる〉といった、まあ・・・あると便利かもしれんが無くてもいい的な能力ばかり。

そんな『異能』、能力をフル活用している人や会社もあるようですが、星野さんがお勤めのソフトウェア開発会社では、異能と業務はあまり直結していない様子。
総務の星野さんは、書類を崩さず置ける異能を仕事に使ってはいるみたいです。でもそれが総務のお仕事そのものに関係あるかと言われれば微妙なところ。ペーパーレスが進んでいて、星野さんの能力は不要になるかも・・・と考えていたり。
しかしこの会社の社長は〈これから流行りそうなものが分かる〉と、経営者らしく素晴らしい異能持ち。

実は、星野さんは周囲に話していないもうひとつの異能を持っています。それは〈他人の異能がわかる/ただし精度は低い〉。
このおかげで特殊な異能、すっごい異能を見抜くこともできるのですが、精度が低いゆえに間違っていることもあって、なかなか言い出せなかったり。

能力はオープンにしているひとのほうが多く、就職活動にも活用している世界。異能を知っている者同士では普通に話題にしますが、調べないひともいるそうで。自分の異能がわからない・調べたいという場合は病院で検査してもらっています。
ひと昔前の血液型のような、気にしないひとは話す個人情報的な立ち位置かな。

このしょうもないのうりょくに溢れている世界の中、特殊な異能も存在します。
同僚のシステムエンジニア、藤原さんの異能は超レアな〈不老不死〉。
この藤原さんが異能を調べないひとで、またすっごい異能なだけに、星野さんは何かと藤原さんに意識が行ってしまいます。
〈猫に好かれる〉〈誤字脱字をすぐ見つける〉〈蚊を一撃で倒せる〉〈果物の食べ頃が分かる〉に囲まれてる中に〈不老不死〉だから。

引用「しょうもないのうりょく」1巻(高野雀)より抜粋
こんなひとたちの中に不老不死、これは気になる

そんな会社に暗雲が。
営業の岡本さん(今後一週間の出来事の雰囲気が分かる)が不穏な空気を察しているところに、社長の弟が襲来します。
会社には全く関与していなかったのですが、それでも兄の会社ということで過去にも来訪はあったらしく、古株社員からの評判がとてつもなく悪いところからも状況が伺えます。
そして社長より、これから弟が経営に加わるとのお達し。その弟がコンサル会社を入れてきてごっちゃごちゃになるのが1巻。

コンサルの井上さんは、星野さんと同じ〈他人の異能がわかる〉異能持ち。井上さんは精度が高いらしく、能力を業務にフル活用しています。
同じ能力を持つ者同士、何かと会話をすることが増えていき、それを見た藤原さんがもやもやする展開に。

引用「しょうもないのうりょく」2巻(高野雀)
井上さんについてはこの1コマでわかる

2巻では異能バトル(ジャンプ的なものではない)や社員旅行があり、その中で藤原さん→星野さんが読者に明確になる場面が。
藤原さんは星野さんに少なからず気持ちを持っているのが描写されているのですが、恋愛にベクトルが向かないタイプに描かれている星野さん、そんな気持ちに気付くわけがない。そこで藤原さんからのダイレクトアタックが描かれます。
その後、3巻では皆の心の中のおばちゃんがあらっ?あらあらまあまあ?仲良しじゃないのまあ~。となるのでお楽しみに。社会人の恋愛、これくらいが読んでいてほっとする。

引用「しょうもないのうりょく」2巻(高野雀)より抜粋
自販機のドリンク売上で異能バトルだっ!

しょうもないのうりょく、だけではなく、それなりな能力を持っているひともいます。
社内では〈相手の嘘の割合がわかる〉とか〈自分の好感度を上げる〉とか。3巻に出る〈電話を掛けてくる相手が事前にわかる〉のひと、内勤を任せたい人と言われているだけのことはある。営業事務あたりぴったりなのでは。
社外では〈未来予測〉の異能を持つ占い師が最高ですね。

2巻の社員旅行回では石碑に異能が刻まれていて(〈石高がわかる〉異能だそう)、そういった、石碑になる人物ですら異能がある、歴史上でも異能が存在しているという細かい設定が楽しい。
そんな中、3巻の終わり際で衝撃な出来事が。
この衝撃に対し、星野さんが井上さんにどうしても言いたかったという言葉が強すぎ。星野さんスゲー、単なるのほほん事務屋に見えて主役なだけのことはある。

同僚との交流がメインであまり大きな起伏も無く、実際に働いている描写も少なくて、社会人の仕事以外のエピソードばかりで最後まで進みます。
しょうもないのうりょくを使い、しょうもない出来事の積み重ねが続くだけなんだけど、そのおかげで読むのに負担が無く、仕事で疲れた日に読むには最適な作品。

引用「しょうもないのうりょく」3巻(高野雀)より
星野さんと藤原さん

シンプルでまるっこいのに無機質な印象を感じさせる独特のタッチ、熱量がある人物でもどこかクールに見えるせいなのか、悪者が居ないという内容に。
イヤミな人とかダメダメな人とかいるんだけど、そんな人物には抜けや愛嬌があって憎めないし、最後までヒールの立ち位置に居させないので、読後感も気持ちいい。

人物の描き分けも秀逸です。
年齢を重ねるとただ皺の線が入るだけ、みたいな画を見ることもありますが、20-30代と40-50代、50代以上、くらいの年齢差がこちらにしっかりと伝わる。顔の弛み具合や体型や、年齢に合ったファッションとかが絶妙に不快感無く描かれているの。
これ地味だけどすごいこと。

3巻の最後、これ電子だけなのか紙だとカバー下あたりなのか不明ですが、登場人物一覧があって、異能が全部掲載されています。ほんとしょうもないのうりょくばかり。
もし自分がこの中のひとつを持つとしたら、と考えたんですが、どれを持っても疲れそうなので「猫に好かれる」にしよう。