ミスター味っ子

少年料理漫画の間口を広げた

 
作者   寺沢大介
巻数   合本版5巻・コミックス19巻(続編あり)
あらすじ 日之出食堂の一人息子、味吉陽一は、母と二人で食堂を切り盛りする。ある日、日之出食堂に立ち寄った味皇に才能を見出された陽一は、料理人として成長を重ねていく。

 

まだ作者が新人といっていい時期のもので、その作品が長期連載しアニメにもなって今でも語られるのはすごいこと。
料理漫画の源流は味平あたりでしょうが、少年誌での料理漫画の間口を広げたのは間違いなく味っ子。本作無くして少年料理モノは語れない。

そして料理漫画といえばうんちくや料理解説、食べた後のオーバーアクションが見どころのようになっています。
派手なシーンを見慣れた後では本作は地味にすら見えますが、その料理漫画のひな型は本作から始まっているとWikiに書いてあったよ。
(そうなのか)
(Wikipediaの味っ子けっこう詳細に載ってるな)
(アニメオリジナルなかなか良さげ)

古いタッチの漫画は、読んでいてそれがネックになることもありますが、本作は読み進めるうちに気にならなくなる、これはやっぱり内容が面白いから。どんなに昔の作品でも、今でも読めるものって絵柄は関係ないんだよね。味っ子もその中に入ります。

2020年現在の料理漫画は異世界の方々の舌を唸らせたりしていますし、少し前なら悪の手先や非情な身内や莫大な借金や人質なんかがありました。そんな設定は本作にはありません。
頼もしい大人と、勝負が終われば清々しい好敵手しか出てこない、エロもグロも暴力もない、子どもさんにも安心してお読みいただけます。こうした健全な料理漫画、実は少ない。

初期は庶民的なテーマが多く、そしてそこで紹介されて今やメジャーになっているものも多くあります。
「揚げ物の二度揚げ」「スパゲティのアルデンテ」「ナンで食べるカレー」「重曹で肉を柔らかくする」、このあたりはもう常識レベルですが、当時これを漫画で取り上げたということは、一般には浸透していなかったということ。(連載開始は1986年、昭和末期)
未だに現実が追い付いていないのは、かぼちゃの花を食材として使うあたりかな。花ズッキーニと同じように扱えるみたい。花ズッキーニはイタリア料理ではそれなりに使うようですが、普通のスーパーではあまり見かけない。かぼちゃの花が普通に売られるようになるのはいつ頃かしら。

引用「ミスター味っ子」合本1巻(寺沢大介)より
一馬のカレー下拵え 鶏肉をヨーグルトに漬けるのも
今はだいぶメジャーな作り方

パートは1~2話で終わることが多く、長引かせることはあまりありません。
陽一の対決相手は全員が陽一を認め、尊大な態度を取っていた人も改心して去っていくというさっぱりとした引き際。ねちねち出てくるタイプの悪役もいません。バトルが長引かないというのは、どこからでも読みやすく新規も入りやすい。
料理がテーマで入り口も広く、週刊連載や一話完結タイプのアニメとは相性がいいわけです。

主人公の味吉陽一は中学生。学校生活の描写はあまり多くないですが、友達が多く「味皇が認めた味っ子」として知られ、頼られている様子が描かれます。
そして陽一の料理スキルが非常に高い。よくありがちなトンデモ特殊能力は付与されていないんだけど、大体は一晩、最長でも一週間で新たな料理スキルを習得してしまう。ウナギは捌く、寿司は握る、蕎麦は打つ。パン焼き窯も一晩で作る。
そして陽一はすごいコミュ力というかコネ?を持っている。
中学生の依頼で特注ステーキ皿や特殊形状の弁当容器を作ってくれる工場、鰹節をシート状に加工する食品加工場、どんな伝手があるんだ。更にチーズを作るために富士山の風穴を利用したりと、謎のコネとスキルがすごい。

引用「ミスター味っ子」合本3巻(寺沢大介)より
町工場に無茶な依頼をする中学生

あと陽一、キミは中学生だが、味皇様と九州に行ったりいきなり香港に行くのは大丈夫なのかね。香港は最低でも半月行ってるな。更に、そういった旅行のときには日之出食堂を丸井のおっちゃんに丸投げするのもどうなのかね。おっちゃんイタリアンの料理人だぞ、普段はカツ丼とか作らないぞ。

陽一を常に支える母。食堂ではホール担当とでもいえばいいのか、調理のほうは全て陽一にお任せしています。陽一の新作料理の味見係でもあり、その時点での欠点をズバズバと指摘してくれます。超初期はおばちゃん風だけど、回を重ねるごとに可愛くなっていくのも見どころ。ちょっとドジっ子で、嬉しいときには陽一を抱きしめて飛び跳ねるのかわいい。
この漫画は女っ気が皆無、レギュラー女性はお母さんだけなので、彼女がヒロインです。

引用「ミスター味っ子」合本2巻(寺沢大介)より抜粋
おかあさんかわいい

父は亡くなって5年経過、その父も料理人で、父がが残してくれた料理ノートを大事にしており、何か困難があるとそのノートを見ています。ノートの肝心なところが破けていたりするのは漫画だから仕方ない。
そして父のような存在なのが味皇様と丸井のおっちゃん。
味皇様はもうその名のとおり、味皇グループのトップであり、日本料理界のドンである、味皇料理界の味皇様・村田源次郎。陽一を天才と感じて才能を伸ばそうと手を差し伸べます。結構気さくで、周囲に崇められていてもそれを驕ることなく、陽一におっちゃん呼ばわりされても気にしません。
丸井さんは初期で陽一と対決した、味皇グループのイタリア料理主任。味皇グループ関係の話にはよく顔を出し、陽一が不在時の日之出食堂で調理をしてくれたりと、陽一をよくかまってくれる大人のひとりです。

引用「ミスター味っ子」合本5巻(寺沢大介)より
味皇様との勝負

レシピが載っているわけではないけれど、再現しやすいものが多いのも本作ならでは。特に初期はミートソースやチキンカレーといった、誰もが読んでわかる料理対決が多いので、普段の料理の参考にもなります。

現実では無理な設定も結構ある。あるんだけど、さらっと流すような描写で、それが当たり前のように進みます。なので一読しただけでは普通に読んじゃう。多々あるツッコミポイントは再読時に好きなだけやってください。ポイントを拾い始めると終わらないのでここではやりません。
だいたい中学生が日本中の名だたる料理人を差し置いて有名になるって時点でもうさあ。動画サイトで人気になるとかは時代背景的に無いから、どうやって全国的に有名になってるんだか謎だわ。

陽一はけっこう可愛い、お母さんも可愛い、丸井さんまで可愛い。
キャラのアクションや作者の端書きに昭和が漂いますが、それも含めて時代感を楽しむ読み方もあり。
続きが気になった方は続編の「ミスター味っ子2」もどうぞ。幕末編もあるってよ!