クニミツの政

社会派ヤンキー

 
作者   安童夕馬 朝基やすし
巻数   合本7巻(単行本27巻)
あらすじ 代議士の秘書見習いをしていた武藤国光は、新千葉ヶ埼市の市長選に出馬する坂上竜馬の陣営で秘書を務めることに。なんとしても坂上先生を市長にしてやるぜ!

 

サイコメトラーEIJIのスピンオフとしても有名な作品。「サイコメトラーの外伝で政治?ヤンキーが主人公?力任せで解決とかでしょ」なんて思っていたら先入観を捨てて読んでみてほしい。

確かにヤンキーが暴れるけれど、サイコメトラーとの違いは明るさ。
事件・謎解きがメインだったサイコメトラーは、どうしても世間の闇に焦点を当てる回が多いですが、本作はとにかく明るい。政治のダークな話は分かりやすくコミカルにして、キャラクターは基本ポジティブ。
とにかくクニミツが動くと楽しくて、元気を貰える主人公です。

そして社会派漫画。
そのコミカルにした政治の部分がわかりやすく、ニュースに出ているおじさん達って何してるの?なんて疑問を覚えたあたりの年代に合う、政治入門のような作品です。
掲載された時代と今ではだいぶ変わった部分はあるけれど、再録やコンビニコミックとかで小学校高学年~中学生あたりの少年誌対象年齢層、そしてもちろん未読の大人にも読んでほしい。

主題は市長選なので、一般国民が直接に首長を選択する、という一番身近な選挙。それををベースに、出馬する側から見た仕組みを解説しています。
市長選を更に噛み砕いて、生徒会長選挙の回がある。選挙権を持たずまだ若い読者に対してもわかりやすい描き方です。
この市長選に絡めて公共工事・教育・農業農薬・医療薬害・地場産業・マスコミ癒着と多岐に解説。単純に良し悪しを決め付けず、その時点での問題提起をした上で漫画的解決を試みる構成、どの題材も面白い。

引用「クニミツの政」合本6巻
(安童夕馬 朝基やすし)より
選挙違反はどーれだ

ただの社会派漫画じゃあ少年モノにならない。ここでソリコミが激しい蕎麦屋のクニミツです。
東京の下町育ち、改造バイクに乗り喧嘩上等、ちょっとエッチで優しい男の子。人を引き付ける魅力、カリスマ性があり、ちびっこから町のお年寄りまで仲良し。ここぞというときにはダイナマイト腹巻で殴り込み。
お祭り好きの明るいキャラクターで、マガジン系なヤンキーのお手本です。社会派だけど。クニミツがまだ選挙権がない年齢っていうのもいい立ち位置。

引用「クニミツの政」合本4巻
(安童夕馬 朝基やすし)より
クニミツの熱い憤り

クニミツが担ぐ、坂上竜馬先生は人格者。
こちらは清貧のお手本で、清さ・正しさというものをクニミツと読者に伝える役目です。全ての政治家がこうであれ、という理想を体現しています。
一緒に選挙を戦うのは先生とクニミツの二人だけじゃない。坂上陣営は高校生ながら参謀のコーメイ、先生の子である高校生の明日香と小学生の晋作、第一秘書の猿渡、クニミツを慕う伊地知くんがメイン。
これに芸者シンママやヤクザ若頭、工員テニスプレイヤーに小学校の教師、それから明日香と晋作の同級生といった学生たちも協力の手を差し伸べます。
清貧ゆえに激しい選挙運動が不得手な先生を、この皆が支えるのは感動ですらある。

引用「クニミツの政」合本7巻
(安童夕馬 朝基やすし)より
選挙活動中の坂上先生

ライバルは市長選対立候補の不破陣営。
クニミツが世話になってアニキと慕う先輩の久城。彼を参謀とした「選挙のベテラン」が坂上陣営に立ち塞がります。
不破陣営は、誰もが想像する選挙運動にプラスアルファした展開で動く、正しい頭脳派。そして政治のダーティーな部分を見せてもくれます。
現市長の五来田、国会議員の宇治村が見せる癒着と、その火の粉を被らずにすり抜ける不破の手腕はお見事。

この不破と坂上先生の一騎打ちになりますが、もちろん他にも立候補者はいます。
歴史上の有名人の名で立候補を繰り返す人、宗教の教祖、有名芸能人、県政からの鞍替え、落下傘候補とバラエティ豊か。この立候補者だけでなく、モデルがはっきりわかる人もけっこういる。大人がクスっと笑える部分。

レギュラーで新聞記者の佐和ちゃんは作品内で数少ない中立派。この職種ですし、中立を貫こうと公正な記事を作成します。でもクニミツに惹かれるがゆえにブレちゃう甘さも。
それをきちんと持ち直すのがえらいし可愛い。

選挙以外にもいろいろ取り上げているところ、教育問題では文科省への疑問、農薬問題では取材先の言葉をほぼそのまま掲載したりとなかなか硬派。
小学校編でのメダカ授業は本当に素敵な話でした。

引用「クニミツの政」合本3巻
(安童夕馬 朝基やすし)より
メダカ発見

クニミツが作品内で「俺らのような飲み込みの悪いやつにわかりやすく教えるため」という主旨のセリフがあります。
これは教科書に対する言葉ですが、この漫画は、よくわからないことをクニミツを通してわかるようにしてくれる教科書でもあります。
完結した完成された作品なのはわかる。わかるんだけど、また連載してほしいなー。今の時点での政治を解釈したものを、少年誌という媒体で読んでみたい。
それができそうなのがこの作品しかないという、なかなか稀有な一作です。