自虐の詩

好きなひとと一緒に居られる幸せ

 
作者   業田良家
巻数   上下2巻
あらすじ 幼いころから不幸の連鎖に巻き込まれている幸江。無口で乱暴なイサオを愛し、小さな幸せを見つけ、毎日をただ生きていく。

 

たぶんこれまで読んだ漫画の中では感動で一番泣いた作品。
悲しくて、辛くて、とかは他の作品だけど、4コマで感動させられるなんて、漫画っていう媒体は凄いなと思わせる。

方向転換は最初から決まっていたのかはわからないけれど、最初はギャグが強く、どんどんシリアスになっていきます。掲載誌も男性週刊誌だったようですが、雑誌のカラーに合っていたのかしら。
幸江やイサオの年齢は読者層にマッチしたとは思うけど。

幸江の回想、過去に場面が変わっていくたびに辛い内容がこれでもかと詰め込まれ、読んでいるこちらは苦しくすらなってくる。
辛い、悲しいエピソードが多く、不幸の連鎖という言葉は幸江のためにあるのではなかろうか、というほどに悲惨。幼いころからずっと辛い。小さな幸江に同情する人は居ても、手を差し伸べる人はごくわずか。愛情が欲しい幸江は、母からも父からも、誰からも貰えなかった。
だから、好きなひとと一緒に居られることが大事。イサオと一緒に暮らすだけで幸せ。

引用「自虐の詩」上巻(業田良家)より
しあわせな幸江

時代設定はけっこう古めで、幸江の若いころなんていつの昭和だよと思うほど。
現代に戻っても、これ1980年代くらい?80年代末期はバブル見えてるけど、それくらいが設定としてはギリギリのような気がするなー。って、今ネットで見たら連載時期がばっちりそのあたりでした。
その時代の、アウトローになり切れず目が出ない大人という、記録に残らずに消えてしまう世界を見ることができる、数少ない作品です。

当然登場人物も昭和のおっさんおばちゃん。
キーになる人物で酷いのは幸江の父親。これはもう人間のクズ。すごいクズ。こんなクズ存在しちゃいけないけど、今でもどこかにいるんだろうなー・・・

引用「自虐の詩」下巻(業田良家)より
小学生の幸江を振り切ってパチンコ屋へ行く父

もうひとり。幸江の支えになった、地元での友人熊本さん。
幸江よりも酷い貧困の中に居て、とても強く誇り高いひとです。この熊本さんが背中を押してくれたから、幸江は立ち止まらずに進めた。大事な友人です。

引用「自虐の詩」下巻(業田良家)より
幸江に上京を
促す熊本さん

サイドストーリーの「隣人のおばちゃんと町内会長の恋」「あさひ屋マスターの片思い」が哀しくも楽しい。
幸江とイサオ、特に幸江の過去編がめっちゃしんどい展開になるので、この脇役話を挟んでくれないと辛くて読めなくなっちゃうから助かる。

幸江の健気さは、もうイサオと別れちまえよでも幸江がイサオを好きなんだよな…とイライラさせられるレベル。
ダメ男と別れない女っているもんなー、なんて思いつつ読んでたら。過去の回想にある二人の馴れ初め、それがまたヘビー。幸江さーん!!!えーっ!!!
イサオもちゃんと幸江さんを大事に思っていることがわかります。

引用「自虐の詩」上巻(業田良家)より
優しい(?)イサオ

この絵柄で4コマ仕立てだから見ていられるけれど、もしもっとリアルなタッチだったらもう辛くて見ていられない。
作者は鋭い視点から社会的な作品を発表していますが、この作風・絵柄だからこそ、一般のひとも手に取りやすくできている。

ラストに向かっていくコマの繋がりは、もうそれだけで泣けてくる。
でもこの幸江の不幸では涙するけれど、この積み重なった不幸を知った上でのあのラスト、目的地へ向かっていく幸江と、あの最後のページのモノローグ。アルジャーノンと同じ感動で泣けてくる。
ここでネタバレしたくないから中途半端な紹介みたいになってるけど、これは読まないと分からないし、読んだ人と語りたい。

本作は映画にもなっています。漫画であれだけ泣かされたから、実写でがっかりしたらどうしようと思いましたが、観てよかった。漫画とはまた違っていて、でもちゃんと漫画の世界がそこにある。
幸江が中谷美紀、イサオが阿部ちゃんで恰好良すぎるのもまた良し。