君の天井は僕の床

アラフォーの実体

 
作者   鴨居まさね
巻数   3巻
あらすじ 女二人だけのデザイン事務所で働くトリさんとウシちゃん。仕事も恋ものんびりマイペース。都会から少し外れた雑居ビルを舞台に、職場周辺で起きる仕事以外の出来事。

 

トリさんは鳥田、ウシちゃんは潮田。事務所はマルサンビルの3階で『オフィスとりだまり』。
幹と枝だけになっちゃったた幸福の木をコートハンガーとして使う二人、性格が見えてしまう。
ビルは三階建てで、屋上に出るには部屋の天井にある押し上げ扉(スチール階段付き)を使います。その扉を開けておくと、本間さんの飼い猫フミヤさんが遊びにきたり、美味しそうな匂いが入ってきたり。

トリさんは第一話で老眼鏡を新調したとウキウキしているお年頃、40オーバーの独身。ブリッジの中央から割れる老眼鏡、仕事で使うには便利そう(本気で欲しい)。
猫飼いで同世代の本間さんとはお互い気になる相手。フレッシュさが無いアラフォーの恋愛は、付き合い始めたばかりですでにベテランの風格。
ウシちゃんは見合いなどしつつも腐れ縁の男性と復縁。長く付き合えるということは、小さな事までフィーリングが合うわけで。
仕事もプライベートも、流行りに左右されすぎずにマイペースできたんだろうなと思わせる二人です。

引用「君の天井は僕の床」1巻(鴨居まさね)より
ウシちゃんとトリさん

高いところが苦手なトリさんに、屋上から会いに行く本間さん。男性相手じゃ苦手が勝つけど、猫相手なら苦手も克服できちゃう。
どこかで読みましたが、犬は相棒、鳥は恋人、猫は宗教らしい。トリさんの猫至上主義を見ているとそうなんだろうなと。
猫の描き方も愛情たっぷり。猫漫画も出している作者、個体ごとの個性をよく描いています。個人的にはフミヤさんよりスジャータちゃんがタイプ(描き方が好きなのは他作品に出てくるブラ子)。

準レギュラーは入れ替わり立ち替わり。その人たちの仕事や身の回りでの出来事が、専門的な話に偏っていて面白い。
ビル一階のつけ麺屋「ごまべえ」とコンビニを掛け持ちバイトする、犬派でアラサーの星川さん。体格の良い彼女は、バイトに明け暮れながら高脂血症と戦い、作中で犬好き大学院生の神田くんと出会います。神田くんは味覚の研究をしていて、ここの教授のうんちくが面白い。別腹ってこんな仕組みなのか。
同じくビル一階「東堂印章」というハンコ屋さんでは、ハンコにまつわるこだわりやいろいろな注文の仕方を、同じフロアの「盛上工房」では校閲・校正というお仕事の苦労を教えてくれます。
他の作品でもそうなんだけど、日常では知る機会がない情報をわかりやすく伝えるのが上手な作者。素人が読んで気になるポイントを取り上げるので、作中で出たモノ・コトを追いかけたくなります。

引用「君の天井は僕の床」(鴨居まさね)より
上・はんこ屋さん(1巻)
下左・星川さん、神田くんのとこの教授(2巻)
下右・松川さんより修正指示が入ったウシちゃん(3巻)

フリー編集者の松川さんは、取引先でもありながら、恋愛を共に語る相手。
一巻4話でトリさんウシちゃん松川さんが喫茶店でちょこっとシモ系の話をする場面があるのですが、主題がエロではなく加齢になってしまうのがリアルすぎ。
女三人寄れば姦しいのは若いころか還暦過ぎてからなのよ、アラフォーの実体はこんなかんじ、きゃあきゃあ言ってもすぐ現実に戻っちゃうのよ。
同級生に孫ができてため息をつく松川さんに引くウシちゃん。彼女はトリさんや松川さんより10歳程若いので、まだ孫の話にはついていけない。同い年の友人に孫って、そりゃ30代独身がそんな話を聞けばドキドキだわ。いつ自分の身にそれが起きるのか……。

タイトルの「君の天井」「僕の床」、言葉のチョイスが素敵。これだけで想像力が搔き立てられる。特別なフレーズというわけでもないのに、組み合わせるとこんなに気持ちいいセンテンスになるのか。
上品すぎず下品にもならず、俳句や短歌を彷彿とさせるような作者の言葉選び。
セリフの全てが不快感を感じさせないような配慮があって、ほわんとした絵柄のせいか、何かが起きてもほのぼのした空気が漂う。読後感はスッキリ。

引用「君の天井は僕の床」3巻(鴨居まさね)より
事務所からトリさんと本間さんに割り込むウシちゃん
こんなテンポの作品

少女漫画じゃ甘すぎる、学生モノはもう合わない。
年齢に合った恋愛物が読みたい、現実離れしすぎるのもついていけない。
そんなアラサーアラフォーには鴨居漫画を。