約束のネバーランド

未来に向かう少年少女たち

 
作者   白井カイウ 出水ぽすか
巻数   20巻(スピンオフ1巻)
あらすじ グレイス=フィールドハウス、GFは孤児院。そこで暮らす約40人の子ども達。最年長で11歳の3人、エマ、ノーマン、レイは秘密を知ってしまう。ここは孤児院ではなく農園。管理者のママから逃れ、ここを脱出しなくては。

とにかくハラハラドキドキさせられる。
仲間は子どもだけ、知恵と行動力があってもパワーも体力も無い。逃げても逃げてもまた追いかけられる中、この状況をどう打破していくのか。先が気になると追いかけているうちに20巻を一気読み。
長編でも入手しやすい巻数でボリュームもあって、ちょうどいい分量です。

第一話でわかること。
孤児だけど幸せに育てられる子どもたち。エマたち3人、11歳が最年長。
年少の子が貰われていく際に忘れ物があったので、エマとノーマンが届けようとした際に、ここが農園であり自分たちが食用肉であることがわかるという酷い展開。
彼らは里親に引き取られているのではなく「出荷」されているのだった。妹としてかわいがっていた子が息絶え食肉扱いされ、鬼たちの食物となる。自分もいつかそうなる。ママはお母さんではなく、私たち食用児の管理者だ。ここを出なくては。

初回でページ数があるとはいえ、たった一話で基本的な説明が全て終わっているのに詰め込み感が無く、二話からもう脱出のための行動で、テンポが速く引き込まれます。

本作は脱出前後で大きく分かれます。雑にジャンル分けすると、脱出前はサスペンス+ホラー、脱出後はサバイバル+ファンタジー。
世界の理に組み込まれた弱者であるエマたちが謎に触れ、新天地を目指す。というのが常にある主題。超速展開で目が離せません。

メインは3名。
エマは正義の子。アホ毛がすごい、運動神経抜群な女の子。良くも悪くも行動力がありすぎるため、いつも周囲を巻き込んで結構な大事に。でもエマの言うことは「正しい」のです。
ノーマンは優しく冷静な男の子。3人の中では司令塔、頭脳役。自分よりも他人を優先し、そのために自分が犠牲になってもいいとすら思っています。この世界での犠牲はとてもシビアなのに。
黒髪で目つきの悪いレイ、知恵者という位置付けです。GFでは皆が外遊びしていても読書を続け、悪態や辛辣な物言いが多い天邪鬼タイプ。情報を得るためなら何でもします。自分のため、そして大事な人のため。

引用「約束のネバーランド」(白井カイウ、出水ぽすか)
15巻より 左からレイ・エマ・ノーマン

この3人はGFで年長かつトップクラスの頭脳を持っていますが、GF自体が「頭の良い集団」で構成されており、全員が高偏差値の子どもたちです。そんな頭が良い子が集まっているのには理由がある。

メインに対抗すっるキャラクターは、GFを管理している「ママ」。
皆の優しいママ、大好きママ!いっぱいの愛情をありがとうママ!
そう、ママはあなた達が大好き。大事な大事な子ども達。成績優秀なあなた達は本当に可愛い。健康で健全で優秀に育ってくれてありがとう。
……何も間違っていないのですが、ホラーな予感。
GFハウス、それは孤児院ではなく農園。商品は子ども達、彼らは「食用児」。ママは彼らを育てるとともに、監視する役目の飼育監。子どもを食べるのは誰?人間?いいえ食べるのは鬼。人間とは異なる存在、違う進化をしてきた生き物の鬼は、ヒトを食用としています。

脱出はさせない。そのメッセージが理解できる者だけにされたママからの宣戦布告、これが第二話。
えーこれ二話でもうこんなんなの?という速さ。
大小取り混ぜた出来事が頻繁にやってきて、圧倒的に不利なエマたち。どうやって脱出するのか。裏切り、真実、協力、切り捨て、秘密の開示、離脱、推測、決断、覚悟、そして実行。頭が良いという設定もありますが、子供らしからぬ落ち着きと胆力。外の世界へ行ったエマたちの、なんて清々しいことか。

まずはハウス脱出まで。
GFを出る。子どもたちVSママ、脱出できるか否かで勝敗が決まる。ただそれだけのシンプルな設定。シンプルだからこそ過程やな工夫を凝らせる。
子ども達は複数で数の利がある。誰かがママに対峙していれば、ママに気付かれず行動できる。一人じゃ無理なことも、誰かと一緒なら。
対するママには頭脳だけでなく年長ゆえの経験、なにより管理者側の利点がある。ママは焦らず平静に業務を遂行。子どもたちが感知できないことを利用して手駒を増やします。

この手駒、投票のコラボネタもあって一部で極地的な人気があるシスター・クローネ。
彼女が大いに盛り上げてくれたことで、脱出前のサスペンス感がより強まりました。彼女が出てくる期間は短いのに、あの強烈なキャラクター性はなかなかのもの。退場後もコミカルキャラとしてオマケページに顔を出します。

引用「約束のネバーランド」(白井カイウ、出水ぽすか)
2巻9話表紙「鬼ごっこしましょう」より こんな鬼いやだ

脱出は5巻37話で終了。
「ハウス脱出まではよかった」という意見を見かけますが、その後のほうが長い作品です。ハウス脱出は言うなれば本作の導入でしかありません。
2巻途中でノーマンが言う「脱獄・逃走・自立」。逃走はまだ終わったとは言い切れないし、鬼のいる世界で自立し生きていかなければいけない。GFの図書室で得たヒント、ウィリアム・ミネルヴァを頼りに追いかける、食用児という立場の子どもたちが幸せに暮らせるようになるのが最終的な目標。

脱出後は大きくいくつかに分けられます。
まずは「シェルターへの道行き」。5巻半ばから6巻終わりまで。
追手から逃れながら暗号を辿りつつ見知らぬ植物相の森を抜けてシェルターへ。この旅路で、この世界の成り立ちを知り、絶望の中に希望を見出し、新たな「脱出」を目標としながら、サバイバル知識を身に付けます。
この章で得た協力者の鬼、ソンジュとムジカの出会いを含めても2巻弱しかないのに、今後の話に深く関わる内容がギュッと詰まっています。

7巻からは「シェルターからゴールディ・ボンド」、ここで新たな仲間が大量に増えます。
シェルターで束の間の休息。安全安心が確保された場所は、小さな子には何よりの心の安定。ちび達に安らぎを与えている間に年長組は頭を巡らせます。
ミネルヴァさんの新たなヒントを入手し、仲間をシェルターに残して探索に行ったエマとレイ。気付かぬうちにゴールディ・ボンド内にいたエマ。ここは地獄、人の狩場。でもミネルヴァさんへ繋がる希望が見つかった。
新たな情報を得たエマと仲間たちは奮起し、ゴールディ・ボンドを破壊しようと奮起。何年もかけて準備していた計画を、今ここで実行します。
弱者の集まりと侮っていた鬼たちは、実は統率されたレジスタンス集団に変貌していました。

引用「約束のネバーランド」(白井カイウ、出水ぽすか)
9巻 狩場の鬼たち 1頁使った大ゴマは大迫力

11巻終わりから「調査、戦闘、流離、そして再会」。
狩場から脱出した子たちを含めてなんと63人の大所帯に膨れあがったシェルターメンバー。こいつら全部世話するとか年長組は大変だな。食料確保についても描写されています。この人数だと食が一番の問題だもんね。

新たなヒントに誘導された行き先でエマだけが見たビジョンを手がかりに探す、ムジカから言われていた「七つの壁」の入り口。七つの壁を越えたところに辿り着けば、この世界を変えることができる。
入り口への行き方がわかったぞと喜ぶ最中に、シェルターが追手に見つかるという事態が発生。

ここでの追手ってだあれ?それはミネルヴァさんの弟、ピーター・ラートリー。
鬼側に付いた人間、といえば簡単ですが、人間社会を維持するために食用児は必要という考えで動く人間です。ミネルヴァさんとは相容れない思想の持ち主。狩場の成り立ちにも絡み、鬼同様に食用児の敵。

シェルターを放棄、守ってくれた存在との別れ。辛い、それでも前に進まなければ。
シェルターを出る直前に来たというミネルヴァさんらしからぬメッセージ、60名近くの安全を確保するために、藁にもすがる思いでそのメッセージを元に動く一行。その誘導先はなんと食用児の楽園。そして感動の再会です。

14巻119話から「理想と現実、それを実行するために」。
いままで触れられずにいた、なぜ鬼が人間を食べるのかということ。単なる嗜好ではなく理由があることなど、鬼の生態が明らかになっていきます。

農園を全て無くして食用児のいない世界を作りたい。エマの無謀な理想論を実行できるレベルまで持ってきたノーマン、あなた何者なのかしら?
実は現在のミネルヴァさんであり、食用児のボスでもあるノーマン。以前よりも頭が切れてクールな印象(そんなボスを敬愛どころか偏愛している部下達がキモ可愛い)。
ミネルヴァとしてとある鬼に会うノーマン。動き出した計画はもう止まらない。

スタートは同じ思いだったエマとノーマン。離れている間に見たもの経験したことが、仲間を救うための結論を違わせた。
背負うものがあまりにも大きいノーマンと理想を捨てられないエマ。気持ちはわかるけれどすり合わせることはできない。袂を分かつことなく理性的にお互いの考えや計画を尊重する二人。なにこいつらまだ十代前半よね?落ち着いてんな。
準備してきた計画が始まっているノーマンと、成功するかもわからない「七つの壁」に行こうとするエマとレイ。

15巻131話から最終章に入ります。
人間と鬼の世界はどうなるのか、「七つの壁と新しい約束」。
鬼たちの世界が描かれます。女王レグラヴァリマ、他の鬼に比べ豪奢な衣装に装飾品や手の込んだ髪型、それに負けない威厳。これは確かに女王の風格。
儀祭(ティファリ)という重要な儀式のようなものがある。便宜上『管理者』としますが、この世界で一番上位の、子どもの鬼のような生き物。この管理者に、鬼たちがその年の最上級の供物ー食用児を捧げるのが儀祭。
鬼たちは準備に余念がありません。その隙を利用して計画を動かすノーマン。夢物語のようなエマの道行きは、間に合うかどうかわからない。だからこちらも動かなければ。射撃訓練や毒薬調合に邪魔者の排除と、ノーマンは現実の世界で指揮を取ります。

一方エマとレイは、その夢物語の中へ。魔術のような方法で入口のある世界へ移動。時間も空間もねじ曲がった場所に二人は翻弄されます。七つの壁を超え、管理者との対話を成功させることはできるのか。
ハイ・ファンタジー世界の中に、更にハイ・ファンタジー世界があるといった状況。
原作の方がこの迷宮のような状況を構築したのも、完璧な画面にした作画の方の画力も、すごい力量です。

引用「約束のネバーランド」(白井カイウ、出水ぽすか)
16巻 七つの壁の世界にいるエマとレイ 
同時期に射撃訓練をするノーマン側

ここで読者は千年前の出来事を垣間見ます。鬼と人間が何故こうなったのか、今の世界の始まりが納得できる歴史。激しい画面でありながら静かに語られる。

すでに鬼の王都に迫っているノーマンを追いかけるように、人間も鬼も、皆が王都に集結。そして始まる儀祭。供物を捧げる中に、ノーマンが計画したとおりに乱入した鬼の一行。鬼同士の醜い内輪揉めが続く中、エマとレイはノーマンを探します。さあクライマックス!
鬼の殲滅を実行するノーマン、違うやり方があると説得するエマ。ドンデン返しやここで知る新たな秘密。残った鬼たちはどうなる?

17巻あたりからラストまでは一気に読めちゃうのでバラ買いしないほうがいい。
鬼については女王すげぇな、って感想。そしてお久しぶりシスター・クローネ。なんでここで?彼女に会うために最終章を読んでみよう!

鬼との戦いは終わった、平和がやってくる。そう思ったとたんに次の敵が。エマたちに安寧はなかなか訪れません。
ピーター・ラートリー。自分が生き残るために、自分が上だと食用児にわからせるために、エマたちに立ち塞がります。アジトに残した仲間たち全てが拐われた。行き先はグレイス・フィールド。最終決戦は懐かしい思い出の詰まったハウス。

最後は素晴らしい大団円。未来に向かう少年少女たち。切なくて嬉しくて、これ以上ない締めくくりです。
友情・努力・勝利の三要素がたっぷり入っているし、主役は思考と発言が直結していて正義でまっすぐなテンプレキャラ。なのに他の少年物とは全く違う。
少女が主人公だからというだけではなく、緻密に計算された展開とそれに負けない画力が独特の魅力を生み出しています。
小さな子どもの愛らしさ、ものすごくかわいい。鬼のは嫌悪感を感じるくらいの化物も居れば、女王とか大公とかの威厳も伝わる。作中だけでなく表紙やカバー下に出てくる美しい画面。原作に負けないくらいのこの画力が物語を牽引したのでしょう。

途中、鬼の社会が描写されます。フィクションによくあるような中世・近世ヨーロッパ風の青空市場、そこを闊歩するのは鬼で、売っているのは人肉。でもそれ以外は私たちが知る市場の風景そのままです。鬼にも家族がいて、生活がある。憎い敵でも肉親の情があるところは人間と変わらない。
大公という鬼が出てくるのなら、王族や身分制度も存在する?こういったものの積み重ねで、エマの理想論が裏打ちされてくる。小さな描写がいくつもあって、再読するのがとても楽しい作品。

キャラクターのバランスもいい。
エマの考えは机上の空論だとわかっていてもそれを言えないノーマン、現実を見て諭すレイ。しかし理想論を語り実行しようとするエマの無双っぷり、こんなんいたら他が折れるしかないじゃん!なんだかんだ全員が引っ張られるという状態。
新たな展開になるたびに、敵味方問わずスポットを浴びる新キャラも個性的。この内容を20巻で終わらせる力量。最後までテンポ良く読んで気持ちいい作品です。

読み終わったらスピンオフ「お約束のネバーランド」もぜひ。あわあわしてるエマ、常識人のレイ、サイコなノーマンが大活躍だ!シスター・クローネは本編よりウザいぞ!

引用「お約束のネバーランド」
(原作 白井カイウ、出水ぽすか/ 漫画 宮崎周平)より
シスター・クローネの渾身のギャグ