ぴりふわつーん

スパイス入門

 
作者   青木幸子
巻数   4巻
あらすじ 柚子原香はレストラン「芳賀亭」オーナー宅の留守番兼管理人。彼女は自称スパイスの魔術師。馴染み深いものから初めて聞くものまで、スパイスやハーブの奥深さに触れてみよう。

 

続き読みたいなー、といったところで終わってしまう作品。青年誌よりも、女性誌の料理漫画枠に入れば長く続けられたような気がする。

主人公の柚子原さんは舌の味覚センサーが人より敏感で、食べたものの再現ができちゃうレベル。性格は非常にポジティブ、グダグダ愚痴るより頭と身体を動かして働く、同僚に欲しいタイプ。
いつでも元気でくるくると人の間を駆け抜けていくような、明るいひとです。

引用「ぴりふわつーん」2巻(青木幸子)より
ラーメン屋の味を簡単再現する柚子原さん 後に本格再現も

主要なキャラクターの全員が大人。
小学生も出てくるんだけど老成しているというか、落ち着いている。
そして皆が健全な精神の持ち主。ネガティブな思考の人も、悩みを抱えている人もいるけれど、根っこが健康というか、マイナスなスパイラルに落ちて行かない人ばかり。これは作者の他作品でもその傾向があるけれど、ひねくれ者ですら中身は正義。良い意味での「いいひと」満載です。
事件は対人関係が主なので、大きな山とかはあんまり無い。日常の問題を拾っていくタイプの作品。

料理系・グルメ系漫画は料理で問題を解決するのがお約束ですが、青年誌なので問題も解決もリアル寄り。
しかしただのリアルを描写しただけじゃーつまらない。本作は「スパイス」がキーアイテム。スパイスやハーブを使いこなすことで問題を解決していきます。
使い方や面白さを教えてくれる、スパイス入門編のような作品。既知のものに少し足すだけでこんなに変化する、知っているものですら、こう使うの?と驚かされます。
普段料理する方ならば、時間があるときの新メニューとか、味変チャレンジしてみようかな、なんて気にさせられます。ココアに胡椒、ピーマン肉詰め料理のコツ、差し入れハーブティなどなど、簡単にできそうなものもあります。ソーセージマフィンにチャレンジしてみようかな、これができれば朝マックを食べに行かなくてもいい。

大筋としてはヒューマンドラマ。家庭や仕事の問題を柚子原さんがスパイスで解決、という流れ。
スパイスで解決ってなんぞ?と思うでしょうが、これが解決するからすごい。スパイスに繋げる流れが上手い。
最初のエピソードが「離婚した両親を思う女子高生」、次が「部下と上司と、上司の弟の関係性」。こういった難問がスパイスでどうクリアできるのか?読むしかないな。柚子原さんの社内異動、という社会人ならではの問題も出てきます。なかなかシビアな設定。

レストラン芳賀亭のメニューが本気で美味しそう、サービスもインテリアも感じが良くて、行ってみたーい。
ローズマリーチキンのサンドウィッチとか、レシピも載ってるし作れそうだけどきっとこんなに美味しくできない。
そりゃ一流シェフが作っているんだから当たり前だけど、この美味しそうな描写は、料理が好き、食べることはもっと好き、という気持ちが伝わってきます。ものすごくお高い値段設定でもなさそうで、ちょこっと贅沢すれば行けるといった風情。よーし今度の週末は少しいいお店で食べようか、なんて気持ちになったりします。

引用「ぴりふわつーん」3巻(青木幸子)より
芳賀亭の外観

日本でスパイス系料理と言えば、最近はスパイスカレーになるでしょうか。インド系のカレー屋が増えて、以前より手軽に楽しめるようになりました。スパイスカレーのセットは昔から売っていたけれど、すみっこにちょこっとしか置いてなかったのが、今ではスーパーでも選んで買うことができます。
和のスパイスなら作品内にもあるように、山葵・生姜あたり。「薬味」と言えば馴染みが出てくる香味野菜がそれに当たります。
山葵ならばドレッシングや唐揚げのフレーバーに使ったり、生姜は料理だけでなく紅茶やクッキーに入れたりと、ひと昔前より使う幅も増えました。
スパイスとハーブとして広く取れば、辛子・山椒・紫蘇・ミョウガ・セリ・にんにく・ゆず・三つ葉あたり。ネギやゴマだって入れてもいいかもしれない。
こうしてみると、けっこう使ったり食べたりしてますね。

引用「ぴりふわつーん」4巻(青木幸子)より
和のハーブ「ヨモギ」を使った一品

電子書籍にはカバー裏や折り返しが未収録の出版社もありますが、本作はきちんと裏表紙まで収録されています。その巻で活躍したスパイス類のイラストが載っている。
透明感があってすごく綺麗。カラーだと静物画に合う画風なのかしら。こうなると紙でも見たくなる。

ある感覚が人より鋭い、という設定を上手く生かしている作品。これ以上鋭くすると少年物のビックリ設定になっちゃうので、匙加減がちょうどいい。
終わりは駆け足っぽくて少々残念な幕引き。スパイス・ハーブを分かりやすく解説した漫画作品はあまり無くて、もっと読みたかった。
実写化もイケそうな内容だし、どこかで続編やってくれないかしら。