暁星記

パラレルワールドSFの傑作

 
作者   菅原雅雪
巻数   8巻
あらすじ スズシロ村の若衆で獅子猛者のヒルコは、年少者に狩を教えている最中にシシザルの群れに襲われる。次々と現れる正体不明のトラブル、祖霊の不吉な予言、そして大爺のために地獄へ向かうヒルコ。森の上で暮らしてきたヒルコが地獄で見たものは。

 

原始的な生活習慣を持つヒトと類人猿が出てきて、祖霊やら地獄やら、なにこれファンタジー?いいえSFです。
設定が「未来の金星」、本作は未来パラレルワールド物の傑作です。

ヒトは狩猟と農耕で暮らし、機械動力は無く、村単位で生活し住居も簡素な作り。
祖霊という形で先祖が干渉し、また精霊というものが存在し、霊感のような能力を持つ者でないと見ることも会話もできない。
猛獣がたくさん出てきます。ゴリラビジュアルのシシザル、その中で人語を介する金毛の一頭が主人公ヒルコを導く。
こんな設定ですがまだまだこんなもんじゃない。この原始社会から精神世界とか惑星テラフォームとか、そういうスケールの話です。

生活を丁寧に描いています。
紙本だと前半の巻のカバー折り返しに松明の作り方とかあった。
一巻でトゲトカゲの狩りをするんだけど、ただ狩るのではなく祈るシーンがあり、この世界にも宗教観があることがわかる。
出てくる生物の解説もあって、こういった世界観の説明がすごく興味深い。

引用:トゲトカゲ解説
引用「暁星紀」1巻(菅原雅雪)より
2話表紙 丁寧な設定が面白い

4巻で場面転換がありますが、その後は圧巻。
3巻までももちろん面白いんだけど、ここからはもう話がどうなるのか気になって止まらない。

惑星を管理する側から見れば、この世界で生きる者は動物のような扱いで、全ての遺伝子を確保し個体識別もしている。
ヒルコは村で生まれておらず識別から逸れた者。明るく楽しく周囲を和ます面と、周囲が畏怖するほどの強さを併せ持ち、ヒルコを厄介者に感じている大人も。
ヒルコに惹かれ影響される者たち、それ故にトラブルの中心にはヒルコが居る。
そのヒルコをただ観察する管理者の存在が、本作をより一層面白くしています。

引用:強いヒルコ
引用「暁星紀」1巻(菅原雅雪)より
ヒルコの強さに圧倒される

更に精神世界、イナンナの存在に至っては複雑さを増し、イナンナの無念が恨みのようになって膨れ、圧巻としかいいようのない画面で顕在する。
ヒトの生きる世界と管理者と精霊、この三つ巴がどうなるのか。

古い作品だけどもっと読まれていい、もっと有名になってほしい作品。
エピソードも拾いやすいし実写+CGに向いてそうだしどこかで映像化してほしい。
SF要素たっぷり、原始生活様式描写も山盛りで、そういうのがお好きな方にはたまらない逸品。
そうでない方にも、ぜひ興味をもってほしいです。