金の国水の国

あなたを思い、あなたのために

 
作者   岩本ナオ
巻数   1巻
あらすじ 二国友好のためにそれぞれ婿と嫁を娶るように国王から命じられたサーラとナランバヤル。国のためにと意に沿わない婚姻の中で、二人は偶然出会います。

 

岩本漫画初心者でしたら、まずはこちらからいかがでしょう。
オルゴール付きの小さな箱を開けたら入っていた可愛らしい宝物のような、リリカルでハートウォームなお話しです。

豪華な意匠、豪奢な建物に囲まれた商業国家A国の末王女サーラ。
豊富な水資源を持ち働き者が集うB国の技師ナランバヤル。
友好のために互いの国から婿と嫁を貰うはずが、どちらも相手を下に見ています。そのためサーラの元に来た婿は犬のルクマン、ナランバヤルの嫁は猫のオドンチメグ。ここで声を上げれば国際問題になると、二人は黙って受け入れます。

サーラとルクマンが散歩の途中、誤ってB国へ入ってしまい、更にルクマンが穴に落ちちゃう事態に。オロオロするサーラの元に表れたのは、オドンチメグを連れたナランバヤル。二人の出会いです。
サーラの何気ない一言に赤面するナランバヤル、もうここで惚れたな。困りごとがあれば手助けするとの申し出に乗ったサーラ。かくして二人はサーラの住まいであるA国へ。

引用「金の国水の国」(岩本ナオ)より
ナランバヤルとサーラ、二人の出会い

サーラはばあやさんと暮らしていますが、この方が素敵キャラのひとり。美味しい料理を作りナランバヤルの身だしなみも整えて、姫様付きも納得の手際の良さ。料理を褒められて照れながらも雑にあしらうツンデレさん。辛辣な物言いがキャラを立てています。

個性的な脇役はほかにも沢山。
プロレスラーな技術者やモデルが透けて見える建築家もいいけれど、本作ではなんといっても強くて格好いいライララさんが一番。目は口程に物を言う。
ナランバヤルをA国に案内したときの、ライララさんのあの笑顔。祖国に対する愛情と同時に、ナランバヤルを好ましく思う感情が伝わります。たったあれだけの表現でそれがわかるの、すごく素敵。

引用「金の国水の国」(岩本ナオ)より
たのもしいライララさん

犬の婿も猫の嫁も表に出すわけにはいかなくて、だけどそれを伝えるわけにもいかず、二人はそうとは知らないままに、お互いに婿と嫁の身代わりに。サーラとナランバヤルの、相手を思いやるためのすれ違いは優しくて切なくて。
文章にするとベッタベタの恋愛物のようですが、アクションあり笑いあり。
リリカルなお話しなのにいちいち挟まれる小ネタが多い。QPS48や聖哉&皇至にぽっちゃりの定義とか。このあたりは岩本作品のお約束。本作は一巻完結なので、そのアクションと笑いとお約束、そして恋愛がぎゅうぎゅうに詰まっています。情報量が多いのに、ごちゃごちゃせずスッと読めるのがまた素晴らしい。

本作の見どころの一つは風景。
A国B国ともに大きなコマで描かれる、空と土と建物と樹木。とても気持ちよく描かれ、素敵な場面ばかりです。できればスマホじゃなくてタブレットかPCモニタで見てほしい。大きな画面で見るとその美しさがよくわかります。
サーラとナランバヤルが夜の国境ですれ違うシーン。ナランバヤルは頼もしくて格好いい男だし、サーラは心優しく強い女性だと伝わってくる場面。
その国の魅力を余すところなく伝える風景、各国それぞれの違いと良さが、サーラとナランバヤルの魅力そのままに伝わります。
幻想的でもあり、美しい絵本を眺めているような気分。

引用「金の国水の国」(岩本ナオ)より
橋上での二人 大画面で見てほしい

祖国を思い、祖国のために。あなたを思い、あなたのために。
ラストに向けての怒涛のような城内移動劇と、そして国同士の大団円。もちろんサーラとナランバヤルも、それからルクマンとオドンチメグも。
読み終わると優しい気持ちでいっぱいになって、最初から読みたくなる。この世界に浸っていたい。そんなお話しです。